茨木のり子

真実を見きわめるのに 二十五年という歳月は短かったでしょうか 九十歳のあなたを想定してみる 八十歳のわたしを想定してみる どちらかがぼけて どちらかが疲れはて あるいは二人ともそうなって わけもわからず憎みあっている姿が ちらっとよぎる あるいはまた ふんわりとした翁と媼になって もう行きましょう と 互いに首を締めようとして その力さえなく尻餅なんかついている姿 けれど 歳月だけではないでしょう たった一日っきりの 稲妻のような真実を 抱きしめて生き抜いている人もいますもの